細田守監督インタビュー - INTERVIEW

親子ってなんだろう?
新しい家族の物語

Q.『バケモノの子』着想のキッカケは?

3年前の前作『おおかみこどもの雨と雪』公開後、僕に息子が生まれたことが、やはり一番大きなキッカケかもしれません。前作では「子どもを育てるお母さんというのは大変な思いをして育てている、それが素晴らしい」という映画がないな、というのが着想のキッカケでした。今回考えたのは「子どもがこの世の中で、どうやって成長して大きくなっていくのだろう」ということ。自分自身が親となって実感したことでもあるのですが、子どもというのは親が育てているようでいて、実はあまりそうではなく、もっと沢山の人に育てられているのではないかなという気がするのです。父親のことなんか忘れて、心の師匠みたいな人が現れて、その人の存在が大きくなっていくだろう。そうしたら、父親、つまり僕のことなんて忘れちゃうかもしれない(笑)。それが微笑ましいというか、それぐらい誇らしい成長を遂げてくれたら嬉しいなということを自分の子どもに対して思うのです。子どもが沢山の人から影響を受けて成長していく様を、この映画を通して考えていきたいです。そういう映画はあるようでないと思うので、そこが凄くチャレンジではないかと思います。

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Q.渋谷を舞台にした理由は?

この映画は渋谷区から一歩も出ません。それにこだわっていると難しい問題がいっぱい出てくるのですが。今まで『サマーウォーズ』では長野県上田市、『おおかみこどもの雨と雪』では私の地元の富山県を舞台にして、田舎の風景の中で物語を作ってきました。そこから一転方向性を変え、都市のど真ん中で冒険をしてみようと。ふつう冒険をするとなると、どこか外国へ行くとか、今住んでいるところと違うところへ出かけていくことを想像しますよね。けれど実は、僕らが慣れ親しんだ街の中にこそ、ワクワクするものが潜んでいるのではないかと思うのです。
ご承知のように渋谷というのは非常にたくさんの人が集う場所であって、常に変化している魅力的な場所でもあります。そんな場所を映画の中で縦横無尽に使ってみたいなと思いました。渋谷というのはポスターにもある駅前だけではなく、幡ヶ谷とか、代々木公園とかも渋谷区ですし(笑)、そういったところで色々な出来事が常に発生し続けていきます。都市空間としての渋谷を舞台にすることは挑戦でもありましたが、映画を作っていく中で、実は非常に冒険に適した場所だったのだなと実感しているところです。

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Q.非常に豪華キャストの方々が出演されています。まずは熊徹役の役所広司さんはいかがでしたか?

あの役所さんが主演で、しかも【熊徹】という熊のバケモノの役を引き受けてくださって映画を作れることは、幸運であり、もの凄く光栄でした。最初にテストを聞いたときに「【熊徹】はこんな声だったんだ、【熊徹】に会えた!」という気持ちになったのですが、アフレコを続けていくと、役所さんがどんどん熊化していくんです(笑)。役所さんを見ると、熊の生まれ変わりなんじゃないか、と思うくらい【熊徹】に一体化していました。そして、【熊徹】の不器用で、粗暴で、そういった欠点だけど愛すべき部分を役所さんはお芝居の技術的なところで演じられるんだろうな、と最初は想定していたのですが、アフレコブースから見える役所さんは、一本気で不器用な人そのものに映るんです。それが本当にキュートで、本当に不思議で、どうしてこんなことが出来るんだろうと驚きの連続でした。

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Q.九太(少年期)役の宮﨑あおいさんはいかがでしたか?

『おおかみこどもの雨と雪』が完成してすぐ、宮﨑さんの別の面を見たい、またご一緒したいと作品の内容も決まらないうちから思っていました。『バケモノの子』というお話が出来て、宮﨑さんに少年役をオファーしました。アニメの世界では伝統的に、大人の女性が少年の声を見立てて演じることがあります。宮﨑さんが【九太】を演じてくれたら、彼女の持っているいい意味での頑固さと、九太の持っている頑固さが共鳴して、キャラクターに力強さが反映されるだろうと思っていました。女性が演じることの艶っぽさを出しつつ、きちんと少年の声に聞こえる。それは少年風に演じようとする技術ではなく、彼女の魂がそうさせているんです。宮﨑さんそのままのお芝居で、少年になっている、その想像以上のはまり具合に感動しました。

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Q.九太(青年期)役の染谷将太さんはいかがでしたか?

『おおかみこどもの雨と雪』のときに、オーディションでお会いして、素晴らしい才能だなと感じていたんですが、残念ながらお話の中で、彼の年齢にちょうどあう役が無かったんです。その時は、小学校の先生の役として短い出番の中で参加して頂いたのですが、もっとメインの役どころでがっつりご一緒したいと思っていたので、今回の【九太】の話が決まって、すぐオファーしました。ご一緒したかった宮﨑さんと染谷さんが、まさか同一人物を演じることになるとは思っていなかったのですが、宮﨑さんからバトンを受け継いで成長した【九太】を染谷さんが演じていることに、違和感は全くないです。実はアフレコより少し前に宮﨑さんと染谷さんの顔合わせとテスト収録をしたのですが、そこから2人にもお互いを意識してもらって役に臨んで頂いていたのが良かったのかもしれません。

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Q.楓役の広瀬すずさんはいかがでしたか?

今回アニメのアフレコは初めてとお聞きしていたのですが、凄い才能の方だなと思いました。ヒロインという役どころではありますが、お姫様的なヒロインではなく、【九太】と同志になるような存在なのが【楓】です。広瀬さんの声が表現しているのは、可愛いだけの女の子ではなく、魂で共鳴しあえる同志のような存在であること。
【楓】は【熊徹】とはまた違う、人間界での【九太】の師匠なので、そこを担えるのは広瀬さんしかいませんでした。実際にアフレコをしてみて、想像以上の素晴らしい表現力でひっくり返りました。演技とか、芝居という一面的な部分だけじゃなくて、その表現力のダイナミックさ、情報量の多さに、なんでこんなことが出来るんだろうと、現場で驚くことが多かったです。

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Q. 宗師役の津川雅彦さんはいかがでしたか?

オファーさせて頂いたのは、僕が津川さんのファンだからです(笑)。長年バケモノ界を束ねてきた【宗師】は圧倒的な品格と説得力を持ち合わせた存在です。まさに津川さんにしかできない役だと思いますし、一緒に映画を作れるなんて本当に光栄です。しかも『サマーウォーズ』が好きだと言って頂いてとても感慨深いです。もともと僕は伊丹十三監督作品のファンで、津川さんは伊丹映画にはなくてはならない存在。『サマーウォーズ』は、実は自分なりの伊丹映画でした。日本映画の中でエンターテインメントをどうやりきるかという挑戦的な部分が。伊丹映画に触発されて作った『サマーウォーズ』を津川さんに褒めて頂いて、『バケモノの子』に出演して頂いた。本当に不思議な縁です。

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Q.多々良役の大泉洋さん、百秋坊役のリリー・フランキーさんはいかがでしたか?

2人とも役に顔が似ていますよね。顔が似ているからお願いした、というのもあります(笑)。存在が、キャラクターそのものです。モデルは実は全然別のところにあるのですが、大泉さんとリリーさんが声を出すと、2人をモデルにしてキャラクターをあて書きしたんじゃないか、という感じがしてきます。
大泉さんは、【多々良】が猿のバケモノということで猿的な人を考えたときに、大泉さんがまず浮かびました。こんなにぴったりくるなんて、想像以上でした。【多々良】は皮肉屋なだけではなく、すごく頭のいいキャラクターなのですが、それを大泉さんがしっかり表現して下さって嬉しいです。【多々良】の魅力を逆に大泉さんに教えられました。
リリーさんは、柔らかくて優しい声が昔から好きで、凄く独特で良い声だなぁと思っていました。【百秋坊】は僧侶でいろんなことを知ったうえで誰にでも優しいキャラクターで、リリーさんの聡明で優しい声にぴったりです。【百秋坊】の奥深さも、リリーさんから教えられました。2人にお願いできて、2人の最高のコンビが見られて、本当に良かったです。

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監督・脚本・原作 細田守MAMORU HOSODA

1967年9月19日生まれ、富山県出身。アニメーション映画監督。91年東映動画(現・東映アニメーション)入社。アニメーターとして活躍した後、演出家に転向する。03年ルイ・ヴィトン春夏コレクションのイメージ映像「SUPER FLAT MONOGRAM」を監督。その後フリーとなり、06年に劇場版アニメーション『時をかける少女』を発表、小規模な公開にも関わらず、若い観客に支持され、ロングラン・ヒットとなった。さらに、日本アカデミー賞に新しく設けられた最優秀アニメーション作品賞の最初の受賞作品になるなど数多くの賞を受賞した。09年には、自ら原作も手がけた『サマーウォーズ』を送り出し、興行収入16.5億円、観客動員126万人のスマッシュヒットを記録する。前作同様、国内のアニメーション関連の映画賞を総なめにするのみならず、海外においても、10年ベルリン国際映画祭に正式招待され、11年アニー賞の最優秀監督賞にノミネートされるなど、いまや日本を代表するアニメーション映画監督のひとりとなった。
また11年にはプロデューサーの齋藤優一郎と共に、自身のアニメーション映画制作会社「スタジオ地図」を設立。12年、監督・脚本・原作を務めた『おおかみこどもの雨と雪』は、観客動員344万人、興行収入42.2億円を超える大ヒットとなった。

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